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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)3581号 判決

原告

若野良治

ほか一名

被告

中部輸送株式会社

ほか二名

主文

被告中部輸送株式会社、同上組陸運株式会社は各自、原告若野良治に対し、金五七万五七四一円およびこれに対する昭和四六年一一月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告若野冨久子に対し、金二六〇万五三三九円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告三梨清に対する請求および被告中部輸送株式会社、同上組陸運株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用のうち、原告らと被告三梨清との間に生じた分はこれを全部原告らの負担とし、原告らと被告中部輸送株式会社、同上組陸運株式会社との間に生じた分はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その一を右被告会社両名の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告若野良治に対し金一九九万七四七二円、原告若野冨久子に対し金四七九万五三三九円、および右各金員に対する昭和四六年一一月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告全員)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四六年一一月一六日午後一〇時三五分頃

2  場所 大阪府高槻市成合町名神高速道路下り線五〇四・一キロポスト先

3  加害車 (甲)訴外中尾新生運転車(三河こ一六―一四)

(乙)被告三梨 清運転車

4  被害者 原告両名

5  態様 加害車(乙)は走行中、シヤフト付きのまま後部右輪を脱輪し、同時に同部分から火をふいたので、普通乗用自動車を運転し同車の後方を走行していた原告若野良治と同車に同乗していた同若野富久子は右発火に気づき、急いで同車の右側前まで出たところ、シヤフト付落輪が原告車の直前をころがつているのを見てこれを避けるため左側に寄りつつ徐行した。そこへ加害車(甲)が追突してきた。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告中部輸送株式会社(以下被告中部輸送という)は、加害車(甲)を、被告上組陸運株式会社(以下被告上組という)は加害車(乙)を、それぞれ保有し、いずれもこれを業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告中部輸送は訴外中尾新生を、被告上組は被告三梨をそれぞれ雇用し、同人らがいずれも右両被告会社の業務の執行として各加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  不法行為責任(民法七〇九条)

訴外中尾新生は、自動車運転者として、運転中は常に進路前方を注視し、先行車等の動向に注意し、進路の交通の安全を確認しつつ走行すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失により、本件追突事故を発生させた。

被告三梨清は、自動車運転者として、運転車両の仕業点検、整備管理を怠つたため前記脱輪を生じさせ、その結果本件追突事故を発生させた。

二  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

(原告良治) 項部異和感、嘔気、両上肢しびれ、腰部疼痛が強いため、時々起坐運動と前屈運動に支障

(原告冨久子) 胸椎棘突起叩打痛、嘔気、頭痛、両上肢脱力、異和感

(二) 治療経過

(原告良治) 事故当日から昭和四七年三月末まで通院

(原告冨久子) 昭和四六年一二月八日から同月一二日まで内田外科、

昭和四七年四月二一日から同年六月一三日まで桜橋渡辺病院に入院、事故日から後遺症認定日までの約三〇か月間通院

(三) 後遺症

(原告冨久子) 両上肢しびれ等で服飾デザイナーとして稼働不能

(七級四号相当)昭和四九年六月二四日認定

2  治療費

(原告良治) 一二万五〇〇〇円

(原告冨久子) 七八万五三三九円

3  休業損害

(原告良治) 同原告は本件事故当時、少なくとも年額一五五万六四一九円の収入を得ていたところ、本件事故のため四か月半休業を余儀なくされ、その間五八万三六五六円の収入を失つた。

(原告冨久子) 同原告は本件事故当時、少なくとも年額七七万円の収入を得ていたところ、本件事故のため昭和四七年中は全く休業を余儀なくされ、その間七七万円の収入を失つた。

4  慰藉料

(原告良治) 二二万五〇〇〇円

(原告冨久子) 三二九万円

(後遺障害七級四号二〇九万円を含む。)

5  店舗改装費 一二九万三〇〇〇円

本件事故がなければ、原告良治は内装費一二九万三〇〇〇円をかけて改装した第二店舗においても営業を開始し、相当の収益をあげ得たところ、右事故による治療等のため同店舗にては営業を開始できなかつたもので、右内装費は本件事故がなかりせば営業することで取得したであろう相当の収益に代替し得るものと考えられるし、右収益期間は事故発生日から一年間が本件事故による損害とみるのが相当である。

6  弁護士費用

(原告良治) 一五万円

(原告冨久子) 四五万円

四  損害の填補

被告中部輸送の自賠責保険から、八七万九一八四円の支払を受け、これをつぎのとおり充当した、

治療費として、原告良治分一二万五〇〇〇円、同冨久子分五〇万円、その余を同良治の休業損害内金

五  よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する答弁

1  被告中部輸送

一については、その主張日時、場所において本件交通事故が発生したことは認めるが、その余は事故態様を含め争う。

二については争う。

三については、原告らの受傷内容、程度、損害額につき争う。

四は自賠責保険金受領の事実のみ認める。

2  被告上組、同三梨

本件交通事故発生の事実、被告上組が大型貨物自動車(横一き九四七五)を運行の用に供していたこと、被告三梨が同車両を運転していたことは、いずれも認める。その余の事実は争う。

被告三梨運転車両の脱輪と本件事故発生との間には相当因果関係がない。

本件事故は被告中部輸送の車両運転者の前方不注視による一方的過失に起因する事故である。

原告冨久子に後遺症はなく、店舗改装費は本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

証拠〔略〕

理由

一  原告ら主張の日時、場所において本件衝突事故が発生したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、乙第一ないし乙第六号証によると、本件事故発生の原因、態様はつぎのとおり認められる。

原告若野良治は普通乗用自動車(大阪五五さ八〇九二)を運転(原告若野冨久子同乗)し、名神高速道路下り線(全幅員一〇・五メートル………走行、追越車線とも各三・七メートル宛、追越車線北側と中央分離帯との間に〇・六メートルの側帯、走行車線の南側に二・五メートルの路肩部分がある)の走行車線内を先行する大型トラツク(被告三梨運転車)に追従して、時速八〇キロメートルくらいで西進していたところ、突然トラツクの右側後輪二軸のうち前軸が折れ、シヤフトを付けたまま二輪タイヤが追越車線を西の方に転がつて行つたが、右トラツクの右後輪あたりからもすごい火花が出ており、これを見た原告らはトラツクが爆発しはしないかとの不安を感じ、自車の方向指示器を左右に点滅した状態でハンドルを右に切つてトラツクの右側を追越して行つたところ、前記タイヤは相当な早さで右へ進んでいたので、原告良治は再びハンドルを左に切つて走行車線に入り減速した。するとタイヤは中央分離帯のガードレールに当つたらしく左の方へ転がつて原告車の前方に進んで来たので、同原告はさらに減速し自車を左に寄せて時速一〇キロメートルくらいで停車直前という頃、自車右側で大きな音がしたと思つた途端、訴外中尾新生運転車が自車右側面に衝突した。

一方訴外中尾新生は自己の勤務先である被告中部輸送から青果物約四トンを積載して大阪市内の市場に向うため、同被告保有にかかる加害車(甲)の普通貨物自動車を運転し、時速七五キロメートルくらいで追越車線内を走行していて、前方走行車線上に大型トラツクが停車しているのに気づきその右側方を通過した頃、約九〇メートルくらい前方の追越車線内と走行車線内にそれぞれ走行車両のあるのを発見したが、このとき訴外中尾としては自車前方の追越車線走行車(訴外金子茂男運転)は追越中であり間もなく走行車線に入つていくものと速断して、先行車の動向に充分な注意を払わないまま漫然右金子車に接近していつたところ、同車の後方約一八メートルに迫つてはじめて同車が低速で走行していることに気づき、にわかに衝突の危険を感じて急ブレーキをかけたが及ばず同車左後部に自車右前部を衝突させたうえ、さらに約六メートル先の走行車線にいた原告車右側面に自車左前部を接触させた。

また訴外金子茂男が、その車両を運転して走行車線内で停止していた大型トラツク(被告三梨運転車)の側方を時速七〇キロメートルくらいで通過した後、徐々に減速し遂には所定の最低速度をはるかに下廻る時速一〇キロメートルぐらいにまで減速して走行していたのは、自車車線内前方五〇メートルくらいの所を大きなタイヤ(被告三梨運転車の脱輪)が転がつていたので、その行方を眼で追つていたもので、この時訴外中尾運転車に追突されたものである。

而して、被告上組が、本件事故当時被告三梨運転にかかる大型貨物自動車(横一き九四七五号)を自己のために運行の用に供していた事実は当事者間に争いがないところ、被告上組は被告三梨運転車の脱輪と本件追突事故との間には相当因果関係がないというので、その存否につき按ずるに、本件追突事故発生には訴外中尾新生の先行車両に対する動向注視不充分な態度にその主たる原因が存することは明らかであるが、そうかと言つて本件のような高速自動車道にあつては、法令の規定によりその速度を減ずる場合および危険を防止するため止むを得ない場合を除いては、所定の最低速度に達しない速度で進行してはならないのに、被告三梨運転車が前記の如く脱輪させ、その車輪が訴外金子車や原告車の進路上を転がり、しかもこれがいつどのような形で停止するかを見極めかねたため、未然に危険を防止しようとした訴外金子茂男や原告若野良治において、前記のように時速一〇キロメートルくらいという低速で走行せざるを得なかつたのであり、このような低速走行が訴外中尾の判断を誤らしめ、その結果追突事故を発生させたのであつて、右金子や原告良治に低速走行を余儀なくさせた原因が被告三梨運転車の脱輪にあることに鑑みれば、右脱輪も本件追突事故発生の原因の一となつており、これと訴外中尾の前記行為とが競合して本件追突事故を発生せしめたものと認められる。

二  そこで右事実によると、被告中部輸送、被告上組はいずれも自動車損害賠償保障法三条によつて、本件事故で原告両名が被つた損害を賠償すべき責任がある。

つぎに右脱輪につき、当時同車を運転していた被告三梨に過失があつたか否かについてみるに、成立に争いのない甲第一号証によれば、被告三梨は事故発生の一週間程前から被告上組に自動車運転手として雇用され、事故当時運転していた加害車(乙)については事故発生前日神奈川県横浜市内にある被告上組の営業所を出発するに先立つて仕業点検をしたが、その時異状を発見できず、脱輪を生じたのは神奈川県下の小田原でみかん一一トンを積載し松山へ搬送する途中で、同車には二人が乗車し、被告三梨は脱輪を生じた三時間くらい前から引続き同車を運転していたが格別異音等も耳にせず、変つたこともないままに運転中、いきなり「ガタン」という音がし自車が少し傾いたようになり何か引きずつているような感じがした途端、自車右方を前方に二輪のタイヤがシヤフト付きのまま転がつていくのを見た事実が認定できる。

ところで、自動車運転者としては運転開始に先立ち車体の内外を点検して交通の安全に支障を来たすような故障ないし不良個所の発見に努め、危険のないことを確認したうえで運転を行ない、もつて車体の故障ないし整備不良に基づく事故発生を未然に防止すべき注意義務を負うことは当然ではあるが、その点検については故障ないし不良個所の存在を予見させるような特段の事情のない限り、社会通念上これらの個所を発見するために必要と考えられる方法、程度によつて行なえば足りると解するのが相当であり、その方法、程度としては、道路運送車両法四七条に基づき、自動車を運行する者に対し一日一回その運行を開始する前において要求される仕業点検においての技術上の基準が一応の参考になり、少なくともこれを上廻る業務を課すことは、自動車の運転者に対して余りに多くを望むものと言わざるを得ないところ、本件にあつては一応の仕業点検は被告三梨において為しておることは前記認定のとおりであり、前記説示の「特段の事情」の存在、その他この度の脱輪の原因事情が被告三梨が仕業点検にあたりどのようにしておれば気づき得た等の事由については何ら主張、立証のないところであるから、結局本件脱輪ないし追突事故が被告三梨の自動車運転者としての過失に起因して発生したものと認めることはできない。よつて、同被告に対し民法七〇九条により本件事故で原告両名が被つた損害の賠償を求める原告らの請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がない。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(原告若野良治)

成立に争いのない甲第二号証の二、甲第四、第五号証によると、同原告は本件事故により、左眼角膜異物・外傷性頸部症候群・腰部捻挫の傷害を負い、大阪府摂津市内の末原外科で診療を受けた後、同府守口市内の内田外科医院に事故の翌日たる昭和四六年一一月一七日から翌年三月三一日までの間に五一日間通院し、項部異和感、嘔気・両上肢のしびれ・起坐運動・前屈運動時に腰部に疼痛が強かつたが、皮下筋肉、静脈内注射・内服、外用薬の投与、湿布、低周波療法等を受け治癒した事実が認められる。

(原告若野冨久子)

成立に争いのない甲第二号証の一、甲第九号証の一ないし四、甲第一〇号証の一ないし四、甲第一三号証の一、二、三、甲第一四号証の一、二、三、甲第一五号証および原告若野冨久子本人尋問の結果によると、つぎの事実が認められる。原告若野冨久子は本件事故により後頭部打撲、外傷性頸部症候群等の傷害を負い、受傷当日前記末原外科で診療を受け、翌日から三日間程大阪府守口市内の関西医科大学付属病院脳神経外科でレントゲン検査、湿布、投薬を受けた後、同市内の松下病院整形外科に昭和四六年一一月二二日から一二月六日までの間に三日通院し、胸椎棘突起叩打痛を訴え、左項部より上腕にかけしびれ感があつたが、薬物療法により手先部のしびれは楽になつたところで転医した。ついで昭和四六年一二月八日から五日間同市内の内田外科医院に入院し、一二月一三日から翌年四月二〇日までの間に五一日通院した(ここでは頭痛、両上肢脱力、異和感、嘔気等がみられ、略原告良治と同様の療法を受けた)が、翌四月二一日より六月一三日までの五四日間再び大阪市内の桜橋渡辺病院に入院、この間自律神経失調症を伴ない、上・下肢の脱力感、項部、背部の疼痛、圧痛、嘔吐、悪心、心悸亢進等多彩な自覚症状がみられ、内科の診断では神経循環無力症、軽度の貧血症、急性胃炎とみられ、食欲がなく、退院後も六月三〇日までの間に二日通院し、同病院では主として皮下筋肉、静脈内注射、内服薬の投与を受けた。続いて同原告は昭和四七年六月三〇日から同年一二月二〇日までの間に七九日大阪市内の和田鍼灸大学堂にて鍼灸治療を受けた後、昭和四八年三月二〇日から昭和四九年五月三一日までの間に一三七日前記内田外科医院に再度通院して治療を受け、昭和四九年五月三一日以下のような状態で症状固定と診断された。即ち、後遺症状としては、自覚症状として嘔気、項部異和感、両上肢のしびれ、自律神経失調のため時々心不全の発作がある。

而して、頭痛、項頸部に凝つた感じ、右腕のしびれ等は、同原告本人尋問時(昭和五一年九月九日)にも尚残存し、鍼治療等に通つていることが窺われる。

2  治療費

(原告良治)

成立に争いのない甲第五号証によれば、原告良治は本件事故による受傷治療費として、前記内田外科医院に一二万五〇〇〇円を要したことが認められる。

(原告冨久子)

成立に争いのない甲第一〇号証の一ないし四、甲第一四号証の一ないし三によれば、原告冨久子は本件事故による受傷治療のための費用(自己負担分)として、(1)関西医科大学付属病院に一万七〇一〇円、(2)松下電器健康保険組合松下病院に二万七二一三円、(3)内田外科医院に四一万九一〇〇円、(4)桜橋渡辺病院に二一万九一一六円、(5)和田鍼灸大学堂に一〇万二九〇〇円(以上合計七八万五三三九円)を要したことが認められる。

3  休業損害

(原告良治)

成立に争いのない甲第四、第六号証および原告若野良治本人尋問の結果によれば、同原告は本件事故当時洋装店を経営し、少くとも年収一五五万六四一九円の収入を得ていたところ、本件事故のため、昭和四六年一一月一七日から昭和四七年三月三一日までの一三六日間休業を余儀なくされ、その間合計五七万九九二五円の収入を失つたことが認められる。

算式 年収一五五万六四一九円(昭和四六年分)×136/365=五万九九二五円

(原告冨久子)

原告若野良治、同若野冨久子各本人尋問の結果およびこれらにより真正に成立したものと認められる甲第一一号証の一、二、甲第一二号証によれば、原告冨久子は本件事故当時夫である原告良治が経営するロビン洋装店のデザイナーとして、デザインと裁断を担当し、年収七七万円(月額六万円と年間賞与分五万円の合計)の収入を得ていたが、本件事故のため、昭和四七年中は全くその仕事に従事することができず、従つてその間少くとも七七万円を下らない収入を失つたことが認められる。

4  慰藉料

本件事故の態様、原告両名の傷害の部位、程度、治療の経過、原告冨久子の後遺障害の内容程度、その他成立に争いのない甲第七号証と原告両名本人尋問の結果およびこれにより成立を認められる甲第一六号証の一ないし四により認められる原告冨久子が早期に回復していたならば、原告良治において一二七万三〇〇〇円の資金をかけて改装した第二店舗でも新規開業する予定であつたところ、原告冨久子は昭和四八年四月頃からどうにか稼働してはいるものの、右受傷の影響で頭が疼き、右腕がしびれて鋏が思うように使えず、字も満足に書けないため、本来の職であるデザイナーとして復帰することは断念せざるを得なくなり、復職後はあまり手先を使わないで済むフアツシヨンアドバイザーの仕事に転換し、これにつれて第二店舗も開店の運びにならなかつたばかりか、事故前は婦人服のオーダー専門であつた営業内容も、既製服の販売を主とするものに変更せざるを得なくなつた等の諸般の事情を考えあわせると、原告若野良治の慰藉料額は二〇万円、原告若野冨久子の慰藉料額は一五〇万円とするのが相当であると認められる。

5  店舗改装費

成立に争いのない甲第七号証、原告若野良治本人尋問の結果およびこれにより成立を認められる甲第一六号証の一ないし四によれば、原告良治主張のとおり一二九万三〇〇〇円の改装費をかけて第二店舗の開業に備えていたところ、本件事故のため右店舗開業の運びに至らなかつたことが認められるものの、そうであるからと言つて右改装費を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできず、営業収益の減収との点もこれを認めるに足る証拠がなく、結局前記原告冨久子の慰藉料額算定にあたつての一斟酌事情に止める外はない。

四  損害の填補

成立に争いのない甲第一七号証の一、二、甲第一八号証の一、二、弁論の全趣旨により成立を認められる甲第一九、第二〇号証によると、自動車損害賠償責任保険より原告若野良治に対し三七万九一八四円、原告若野冨久子に対し六九万円が支払われておることが認められる(もつとも原告らと被告中部輸送との間においては、自賠責保険から原告らに対し、八七万九一八四円が支払われたという限度で当事者間に争いがない)。

よつて原告らの前記損害額から右填補分を差引くと残損害額は、原告良治につき五二万五七四一円、原告冨久子につき二三六万五三三九円となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが被告中部輸送株式会社、被告上組陸運株式会社に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額はつぎのとおりとするのが相当であると認められる。

原告良治は五万円

同冨久子は二四万円

六  結論

よつて被告中部輸送株式会社、被告上組陸運株式会社は各自、原告若野良治に対し金五七万五七四一円、原告若野冨久子に対し金二六〇万五三三九円、および右各金員につき本件不法行為の日である昭和四六年一一月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、被告三梨清に対する請求および被告中部輸送株式会社、同上組陸運株式会社に対するその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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